2002年11月12日 バーゼル戦(アウェイ)
俺とウリエとの間に最大の危機が訪れた。CLの決勝トーナメント進出をかけた大事な一戦を前にして、俺は狂っていた。
ピッチ外での深刻な問題が俺を悩ませていたんだ。

ことの始まりはこうだ・・・
俺はウィンストンに新しい家を買った。
ポール兄ちゃんはアイアンサイドに残ったが、オヤジとオフクロと一緒に移り住んだ。
金が入り、家を買い、両親は働きに出る必要がなくなった。
ひとつ屋根の下、家族が揃って楽しく暮らす…
それが俺の理想だった。 全て上手くいくはずだった。
なのに・・・
どこでどう間違えたのか?
全てがおかしくなっていた。
俺の大好きなオヤジとオフクロの仲が険悪になっていたんだ。
最初のうち、俺の前では仲のいいフリをしていた。
ある日、家に帰ると大喧嘩の声が聞こえてきた。
俺に気づくと、パタッと止まった。
両親と話し合い説得しようとしたが、無駄だった。
家の中は戦場だった。

家のことが心配で、練習にも試合にも集中できなくなった。
ひどいプレイが続いた。
10月26日、ホームのスパーズ戦で途中交代させられた。
俺はプッツンと切れてしまい、ドレッシングルームへ直行。
悔しくて悔しくて、聞く耳を持たなくなった。
ウリエは怒って、俺を罰することにした。
続くウェスト・ハム戦ではベンチ
ミドルズブラ戦でも途中交代
そして、バーゼル戦。

スイスに飛ぶ前、ウリエはメルウッドのオフィスに俺を呼んだ。
俺を悩ませているものが何かを知りたがったのだ。
オフィスには、ウリエの他に フィル・トンプソン、サミー・リー、アレックス・ミラーと キーパーコーチがいた。
どうしてミラーとキーパーコーチがいるんだよ?
5人は代わる代わる俺に質問を浴びせかけた。
俺は黙って床を見つめていた。
俺の態度に 5人はイライラして怒り出した。
俺は激高する感情とコブシを必死で抑えて言った。
「もういいですか?」
そして部屋から出て行った。
両親のことを話すべきだったのかもしれない。
でも、そんなこと、口が裂けても言えなかった。
でもたった一人、打ち明けることができる相手がいた。
ダニー・マーフィだ。
バーゼルのホテルでマーフィと部屋をシェアすることになり、両親のこと、5人による尋問の様子などを話した。
マーフィも俺と同じ経験をしていたから、すぐに分かってくれた。
「気にするな。 強くなるんだ。
今はそのことを少し忘れてプレイするといい。」

ヒーピア、ファウラー、J.レッドナップ、マーフィ
驚いたことに、バーゼル戦で俺はスタメンだった。
しかも一番好きなポジション(CM)を与えられた。
ところが俺のプレイは最悪だった。
パスはことごとく敵に渡り、外に飛び出し、足が止まって、まるでホラー映画を見てるようだった。
どうしても勝たなくてはならない試合だったのに、前半で3失点くらってしまった!
ハーフタイム
ドレッシングルームのドアを開けた瞬間、ウリエが俺に向かって叫んだ。
「スティーブン、シャワー浴びろ!」
これでおしまい。
俺にとって、これ以上の屈辱はなかった。
シャワールームにまで ウリエの指示が聞こえてきた。
「ディアオ、スティーブンのところに入れ」
なにぃ? 俺の代わりがディアオだって?!!
後半に入って マーフィ、スミチェル、オーウェンが3点入れて、なんとかドローに持ち込んだ。
試合が終わってみんなが戻ってきた時、俺はトイレに隠れた。

翌朝、ウリエはマスコミ陣に向かってこう言った。
「スティーヴンは世界の王になったつもりでいるらしい。
うぬぼれた選手は扱いにくく危険な存在だ。」
このインタは新聞各社のトップに。
ふざけんなよ!!!
ウリエのとったショック療法は間違っていた。
内輪の問題をマスコミにもらさないというのが リバプール歴代監督のやり方だった。
ファウラーとジェイミー・レッドナップは俺に同情し監督を非難した。
オヤジは新聞を読んで激怒した。
「なんだとーーっ?!!
お前が調子悪いのは 俺たち夫婦のセイなんだ。
そのことをウリエは知ってるのか?!」
「お前が話せないなら、俺が直接行って話してやる!」
俺の制止を振り切って、オヤジはウリエに会いに行った。
まもなくウリエから電話がかかってきて、オフィスに呼ばれた。
オヤジは正しかった。
誤解は解け、まもなく俺は元通りのキレを取り戻した。
オヤジとオフクロは平和的に離婚し、静かな生活に戻った。
両親の離婚の話が表沙汰になることはなかった。
ところが、俺には悪友がいてドラッグに染まっているという噂が流れた。
俺は一度もドラッグに手を出したことなんてない。
ファウラーに相談すると、
「心配するな」と適切なアドバイスをくれた。
マスコミの書くことは嘘だらけだ!!!
ヤツラは「火のないところに煙を立てる」のが好きなんだ。

でも幸いかな、ウリエと俺の関係はすぐに修復できた。
12月、サンダーランド戦の前にボスに呼ばれた。
「サミー(ヒーピア)が出られなくなった。
お前にキャプテンをやってほしい。」
リバプールのキャプテン!! ( ゚▽ ゚*)
試合は負けたけど、キャプテンマークを腕に巻いた気分は最高だった。
2003/04シーズンに入ったある日のこと、ボスに呼ばれた。
「スタッフや選手と話し合ったんだが、キャプテンをサミーからお前に移そうと思う。」
ビックリした。
ヒーピアはみんなから尊敬されていた。
でっかくて 不動のセンターバック、根っからのキャプテンだ。
「あのぉ、でも、サミーはなんと?」
「大丈夫だ。 サミーにはもう話してある。」
その夜は眠れなかった。
嬉しさと 申し訳なさで 混乱していた。
翌日メルウッドに着くと、ヒーピアが声をかけてきた。
「ちょっといいかい、スティービー。
昨日、監督とフィルと話をしたよ。
お前に対して何も悪い感情を持ってないことを知ってほしいんだ。
お前はキャプテンになる資格がある。
時間の問題だったんだよ。
グッド・ラック!
もしアドバイスが欲しければ、いつでも相談に乗るからな。」
サミー・ヒーピア!
なんという気高い男!
俺はヒーピアのようなキャプテンになりたいと心から願った。
ヒュートンで生まれた少年がリバプールFCのキャプテン!
信じられないほど名誉なことだった。
歴代キャプテンのことを回想してみた。
ロン・イェイツ、エムリン・ヒューズ、フィル・トンプソン
グレアム・スーネス、アラン・ハンセン・・・
ウリエが俺にしてくれた数々のことを思う時、感謝の気持ちでいっぱいになる。
いくら感謝しても足りないくらいだ。
スチービーの苦悩は尽きることがありませんね。
新しい家を買って、みんながハッピーになれると信じていたスチービー。
よかれと思ってやったことが不幸を招いてしまったのか・・・
読んでいて、私まで苦しい気持ちになってきました。
言い訳が嫌い、ヒトのセイにするのが嫌い
ちょっと不器用なスチービー
そんなスチービーは誤解されやすいけど、仲間からの信頼も厚い。
だからこそ、若くしてキャプテンを任されたんですね。
キャプテン交代の真相がこれでやっと分かりました。
それにしてもヒーピア、泣かせてくれるぜ。。。
離婚の話はマーフィに、ドラッグの話はファウラーに相談したというのもスチービーらしいです。
こういう時に、オーウェンの名前は出てこないんですよね。。。

ところで・・・
ここ2年程、リバプールでのスチービーはあまり満足のいくパフォーマンスができていません。
パスが敵に渡ったり、シュートが枠を外れたり、満足に走れない試合も多くありました。
昨シーズンは怪我にも悩まされました。
もうピークを過ぎたという声もちらほら。
確かに31才という年を考えれば、ピークは過ぎたのかもしれません。
でも、スチービーの代わりに言い訳をさせてください!
上の文章にもあるように、
良くも悪くも、彼のプレイは精神的なものにすごく左右されます。そんなことでは困る!という人もいるでしょうが、
そんな彼だからこそ、他の誰にもできないような奇跡が起こせるのです。この数年にわたり、オーナーの問題、監督の問題、チームメイトの問題、etc. キャプテンの力ではどうにもならない問題が多すぎました。
リエラの言った通りリバプールは
「沈みかけた船」だったんです。
破産、二部降格などという最悪のケースを恐れた人もいました。
でもちょっと思い出してください。
W杯2010南ア大会ではイングランドのキャプテンを任されて、幻のゴールでチームは敗退したけれど、彼自身はキレキレでした。
続く代表の親善試合(若手中心)でもキレキレでした。
キャロルやヘンダーソンがリバプールを選んだのは、その時一緒にプレイしたスチービーに憧れたからです。
とても「終わった選手」には見えませんでした。
つまり、リバプールという船が 新しい船体と 新しい船長で生まれ変わった今、スチービーも甦ることができるはずです。
まとまった休みがとれなくてずっと先送りにしていた大手術が無事終わり、休養時間もたっぷり!
もうすぐ待望の第3子も生まれてきます。
子供の頃から尊敬していたケニー王のために、何ができるかウズウズしてるはず。
来季こそ本来のぎらぎらキャプテンが見られると信じています。
新たなる船出に向かって!

自叙伝はペーパーバックで500ページもあって、読んでる途中で本が分解!
真ん中の130ページ分が外れてしまいました。(ノω・、)
この後、ユーロ2004ポルトガル大会の話、ウリエが解任されラファがやってくる話、移籍の噂話と続きます。
びっくり裏話もたくさんありましたが、決して愉快な話ではなかったので、ここで紹介するのはやめます。
3章分(約40ページ)をスッ飛ばして、次は「イスタンブールへの道」の話をしたいと思います。
お楽しみに♪